hosoyaalonsoの日記

文学懐疑のダンカイ世代

2022-08-20から1日間の記事一覧

『ミリオンダラー・ベイビー』

Amazon prime 終了間近というので再々見。あらためて、イーストウッドは我々が既によく知っていることを描こうとしたのだと納得。 何度でも、胸中にわき上がり、波立ち、声となり、刻まれて来たはずの、あの思いをこそ、と。 フェリーニの『道』La Strada に…

「小説」というかたちーー漱石『道草』

《船に乗った時の鈍い動揺を彼の精神に与える種となった。》 漱石『道草』中の表現である。妻の実家の経済状態が悪化しているらしいと知った主人公の心中を語っているのだ。その比喩「船に乗った時の」とは、明快に足下の揺れの感触を伝えるだろう。それは、…

ダンカイ高齢世代よ、いずこへ

今年3月の国連科学委員会(UNSCEAR)の報告でも、2013年の報告とほぼ同様に、福島第一原発事故後、福島の住民に放射線被ばくによる確定的な健康影響は見られていない。将来的な遺伝的影響も予想されない、と述べられている。あれだけの大事故でも死者等の被害…

余波と残影

『海舟余波』で鮮やかに勝海舟の軌跡を描き出した江藤淳が、二十年後に『南洲残影』での悲壮感の歌い上げへと傾いたのはなぜだったのか。 「人の生は循環する自然のなかを帆を張って横切る一艘の船に似ている」というハンナ・アーレントの言から始められる海…

カルチェ・ラタンも、渋谷の街も

カルチェ・ラタンも、「舗道の下は砂浜だ」も、むろん信じはしなかった。 そこは眼前に貧乏学生のたむろする駿河台に過ぎず、パリの舗石の下にも海浜などありはしない、と。池袋のガード傍に「ここがロドスだ、ここで跳べ」と落書があったが、何処がロドスだ…

古代へのまなざし

旧稿より 書評・岡野弘彦著『折口信夫伝――その思想と学問』中央公論新社 「一番末の弟子」であり、折口信夫の晩年に起居を共した著者による伝記である。だが、これは通常の編年体の伝記とは異なり、「行きつもどりつ」しつつ、折口という思想家の大きさを探…

純粋持続とかいうような事

谷崎潤一郎「異端者の悲しみ」に、「長恨歌」の楊貴妃入浴の連想が数日前から繰り返された挙句、意識の流れの停滞か、と疑った主人公が、ベルグソンの「一体純粋持続とか云うような事は、あれは真理なのか知らん。……」と訝る場面がある。 その解説として、大…

自己像としての過去ー『道草』

《兄は過去の人であった。華美(はなやか)な前途はもう彼の前に横(よこた)わっていなかった。何かに付けて後(うしろ)を振り返りがちな彼と対坐(たいざ)している健三は、自分の進んで行くべき生活の方向から逆に引き戻されるような気がした。「淋(さむ)しいな…

願いと報酬

一流私学とはいっても、地方都市である。近県を含めた地元出身者が多く、親元を離れず、手堅く学び就職してこの地で生活する、という堅実な学生がほとんどだった。トップの国立大に対する対抗心を煽っても大方の手応えは弱く、特段の悔しさも自負も見せない…

藤村『家』ーー時々に視点を移して…

photo by mikaruma 新聞販売店のチラシが入っていた。夕刊配達3時から1時間で月給3万円〜(時給1,200円位か)、事務スタッフ10時から2時間、時給1,000円(簡単なパソコン操作)、休日は日祝年末年始という。部数減が止まらず、販売店も大変なのだろう。そこで働…