hosoyaalonsoの日記

文学懐疑のダンカイ世代

2023-07-21から1日間の記事一覧

『道草』を読む(3) ──出会い

そうして、最初の場面があらわれる。一人の男との邂逅である。それは、語ろうとされるものの重さを一挙に予感させる、全篇の白眉ともいうべき場面なのだ。 《ある日小雨が降った。その時彼は外套も雨具も着けずに、ただ傘を差しただけで、何時もの通りを本郷…

道草』を読む(2) ──批判する〈語り手〉

『道草』冒頭は「遠い所」から帰った健三の思いをたどっている。 《彼の身体には新らしく後に見捨てた遠い国の臭がまだ付着していた。彼はそれを忌んだ。一日も早くその臭を振い落さなければならないと思った。》一 ここで、なるほどこの男は「遠い国」を経…

『道草』を読む(1) ──待たされる読み

漱石の一人称の誘引力はいうまでもない。『坊っちゃん』や『こころ』の心地よいまでの一人称の語りは、読み手の視線を語り手から書き手の方へと向かわせる強い力を持っている。すなわち、我々はそこで、漱石その人の声をじかに聴きたくなるのだ。 だが、『道…